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「青旅」秩父鉄道で川のほとりへ
今どき本を読む子どもは珍しい。 待合せで会った12歳の少女の手には『薬屋のひとりごと』という本があり、西武線の下り電車の中で一人座ってそれを読む。 一瞬、彼女は旅慣れてるのかなと思ったが、そんなことはあるまい。 自分なりの時間の過ごし方を知っているのだろう。 ...
「青旅」笠岡から北木島へ
冷房の効いた船室から彼女がすぐに出てきて、狭い甲板の硬いベンチに座ったのは意外な気がした。 船のエンジンの匂いが嫌だったのかもしれないが、甲板だって排気の熱気を帯びた風が噴き出している。 それでも船が動き出し、濁った水の上を走り出すと彼女は目を細めて海を眺める。 ...
「青旅」岳南電車で田子ノ浦へ。
待合せの前から不穏な灰色雲が広がってきていて、青旅の行先に予定していた大井川のあたりは雷雨になるらしい。 困ったなあと思って、11歳の女の子に海と山とどちらに行きたいか尋ねたら「海」と答えた。 家族はどこかへ行くにもいつも車で移動するから、彼女が今までに電車...
「青旅」御殿場線で国府津の海まで
model: Nao 梅雨明けはまだしていない。 湿り気のある空気は暑い。山間の狭い平地に広がる田んぼの中を歩く14歳の少女の首筋には汗が浮かんでいる。 彼女は友達とプリクラに行くこともないそうだ。顔を加工した写真が好きではないという。...
「青旅」呉線で春の海辺へ
model: Kina 「前はパン屋さんになりたかったんだけど……早起きしなきゃいけないから」 海風に吹かれながら11歳の少女はそう答える。現実を知ってしまったらしい。 幼ない頃にサンタクロースがいると信じていた子どもたちのファンタジーな夢は消えて、ひとつずつリアルなものに...
「青旅」鹿島臨海鉄道で夏の海へ
スマホの小さな画面は15歳の少女をいとも容易く吸い込んでしまう。 電車に乗って移動する時間の9割以上、彼女はほとんどスマホを見て過ごす。 窓から外を見るように促しても、ちょっと顔を上げて風景を見やるとすぐにまた視線は手にするスマホに落ちてしまう。...
「青旅」京急線で湘南の海へ
青い海を前にして十五歳の少女は迷っていた。靴を脱いで海に入るか否か。 「海に来るのはこれが最後だよ」と一緒についてきた父親が彼女に言う。 その言葉に背を押されたのか、靴を脱ぐと水に足を浸す。夏の湘南の海は温かい。彼女は水の中の貝殻を探して拾う。...
「青旅」伊賀鉄道で夏の川べりへ
「あっつーい!」少女は頭の上で両手で重ねて叫ぶ。 彼女のつややかな黒髪は落ちてくる真夏の陽射しを吸い込んで熱そうだ。 冗談でじゃあ茶髪にするかと言ったら、「チャパツってなあに?」と聞き返される。 純粋無垢という言葉が頭に浮かぶ。そうか君はまだ大人の階段昇るシンデレラ。...
「青旅」山陽電車で播磨の海へ
model: Momoka 山に挟まれた小さな駅に降り南へ歩くにつれて、少しずつ潮の匂いが強くなってくる。 黒いワンピースに白い小さなバッグを斜めに掛けた12歳の少女は夏の陽射しに照らされた川沿いの道を海に向かって歩く。...
「青旅」近鉄電車で吉野川のほとりへ
阿部野橋から1時間電車に揺られて着くのは奈良県大淀町。 大阪で生まれ育った13歳の少女は初めて田舎に来たのかと思えるほど古い昭和の街並みに声を上げる。 「ここ住みたい!」いや無理やろ、とすかざすママがツッコミを入れる。イオンないで?「えー?イオンないとかムリ」...
「青旅」東武東上線で彼岸花の咲く野原へ
赤ちゃんのときから撮ってきた女の子は小学5年生になっている。幼い頃はちっちゃかった彼女もすっかり背が伸びた。 物静かだが、よく気の回る子である。「青旅」の撮影の意図を察して動いてくれる。 東上線を小川町で降りて、古い家並みが残る一角を歩く。...
「青旅」神湊から地島へ
港からわずか5kmほど先の沖にある島に行く船は、玄界灘の波に思いのほか揺れる。 狭い後甲板に出た14歳の少女は、手すりをしっかりつかんで海を見ている。大丈夫かと尋ねたら、小さな声で「怖い」と言う。 「青旅」に来た彼女は中学3年生で、来年は高校受験である。...
「青旅」岳南電車で田子ノ浦へ。
富士山の麓の田んぼには緑の風が渡る。 黒いチュニックを着た12歳の女の子は終始うつむきがちに足元を眺める。声をかけると消え入りそうな声で返ってきて聞き取れない。 8年前に会っているとはいえ、もう忘れてるから初対面のようなものである。...
「青旅」京阪電車で琵琶湖のほとりへ。
model: Nene 「あ、ここ覚えてる」15歳の少女は、踏切を渡るときにそう言った。 初めて「青旅」を撮影した小学生の女の子は背が高くて中学生に見えたのだが、4年経ってママの背を追い越そうとしている。 緊張してはにかむような笑顔が変わらない。...
「青旅」伊予鉄高浜線で瀬戸内の島へ。
model: Yuna オレンジ色の電車が海辺を走り、一世を風靡したドラマ「東京ラブストーリー」の舞台にもなった駅に停まる。 15歳の少女にとっては、友達と遊びに来た場所であるほかには特別な感慨はない。 瀬戸内海に面した渋い港町も彼女には平板な風景である。...
「青旅」ひたちなか海浜鉄道で海辺まで
model: Ayaka 分厚い雲の西の彼方だけがオレンジ色に染まっている。 遠くの踏切の音が鳴って、一両きりの列車がやってくる。 誰もいないホームで、大人になりかけの少女はまっすぐにレンズを見つめる。 生真面目な表情。...
「青旅」湖西線で琵琶湖のほとりへ
model: Nanami 2021年5月3日 大きめの柔らかそうなパーカーを着た少女は、白い雲のようにとらえどころがない。 赤ちゃんの頃から毎年撮ってきたのに、彼女のことをまだ何も知らない。来年は中学生になるというのに。...
「青旅」南海電車で夏の終わりの海へ。
model: Yuika 台風が抜けて晴れると思っていた。 夏休みに海へ行けなかった少女は、引き寄せられるように波打ち際へ歩いてゆき、ためらうことなく靴を脱ぐと水にその足を浸す。 乾いた花が一気に息を吹き返すにように、子どもらしい無邪気な表情があらわれる。彼女はもうすぐ11...
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