model: Nao
梅雨明けはまだしていない。
湿り気のある空気は暑い。山間の狭い平地に広がる田んぼの中を歩く14歳の少女の首筋には汗が浮かんでいる。
彼女は友達とプリクラに行くこともないそうだ。顔を加工した写真が好きではないという。
フォトグラファーとしては嬉しいことなのだが、イマドキの十四歳にしては珍しい。
一万円あったら何買いたい?問うたら彼女はしばし考えて答える「……貯金?」
谷峨から乗った御殿場線の電車は国府津に着く。
駅の前は建物が並ぶがその向こうはすぐ海である。
海で泳いだことがないという彼女に少し驚く。都会に住んでいるとはいえ、そういうものなのか。
はじめは濡れるのを嫌がるそぶりを見せたのだが、波打ち際にいるうちとうとう足が水に濡れたらあとは自分から海に向かっていくようになる。
きっとこれからもそうやって彼女は知らない世界に向かって進んでゆく。
いつか海で泳ぐ日も来るだろう。
彼女の週末はほぼ塾で帰宅が夜10時。昨夜も深夜1時くらいに寝たそうで、僕よりずっとハードな日々を過ごしている。
撮影終わって国府津駅のコンビニで、彼女が好きだというグミでも買ってあげればよかったのに、すぐに帰りの電車に乗せてしまったのが悔やまれる。
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