model: Kina
「前はパン屋さんになりたかったんだけど……早起きしなきゃいけないから」
海風に吹かれながら11歳の少女はそう答える。現実を知ってしまったらしい。
幼ない頃にサンタクロースがいると信じていた子どもたちのファンタジーな夢は消えて、ひとつずつリアルなものになってゆく。
それがいいことなのかどうなのか。
彼女は万事に控えめで大人しい。
立ち位置や動きの指示にも素直に従う。
しかし、小さな集落の先のコンクリートの堤防を越えて砂浜に降りると、彼女は一人先に立ってきれいな貝殻を探し始める。
自分の好きなものを見つけたんだろう。
シーグラスを知っているかと尋ねたら知らないと答えるので教える。
波に洗われたガラスの角が取れて丸くなったもの。触っても大丈夫だよ。
気に入ってくれたかどうかはわからない。
子どもから大人になってゆく思春期の入口に立つ。
青い海辺を歩く11歳の姿は儚げに見える。
これから自分で自分の好きなものを見つけてゆくだろう。そして気がついたら大人びた眼差しで「そうですね」なんて自然に敬語で答えるのだ。
いつまでもサンタクロースを信じているわけにはいかないか。
まだなりたいものが見つからない少女はカメラに向かって少し困ったようにはにかむ。
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