赤ちゃんのときから撮ってきた女の子は小学5年生になっている。幼い頃はちっちゃかった彼女もすっかり背が伸びた。
物静かだが、よく気の回る子である。「青旅」の撮影の意図を察して動いてくれる。
東上線を小川町で降りて、古い家並みが残る一角を歩く。
僕は朽ちかけた昭和の建物を見て感慨に浸るが、彼女の興味を引きそうなものはない。
とうに廃業したと思われる古い商店の看板に「○○建具店」とあったので、彼女の知らない建具屋さんの説明をするが「ふーん」で終わってしまった。それはそうだ。
唯一、路地に生えた苔がきれいだと言う。感じるものは人それぞれ違う。
駅に戻ってバスに乗り、槻川に沿って山間に向かう。
小さな集落のバス停で降りると、川沿いの土手に彼岸花の赤い絨毯が広がっている。
グーグルマップだけを頼りに当たりをつけた場所で、観光名所でもなさそうだから誰もいないだろうと思っていたら、知る人には知られているらしかった。
カメラを持ったアマチュアやコスプレイヤーがそこかしこで写真を撮っている。これは想定外で撮りづらい。
赤い花の中にたたずんだ彼女は、家族写真を撮るときとは違った表情を見せる。
11歳はもう子どもの終わりなのだな。
まだ一人でどこかへ行ったことがないという彼女も、いつか本当の一人旅をするようになるだろう。
そのときに今日のことをちらりと思い出してくれたらいいなと思う。
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