青い海を前にして十五歳の少女は迷っていた。靴を脱いで海に入るか否か。
「海に来るのはこれが最後だよ」と一緒についてきた父親が彼女に言う。
その言葉に背を押されたのか、靴を脱ぐと水に足を浸す。夏の湘南の海は温かい。彼女は水の中の貝殻を探して拾う。
夏は毎年やってくるけど、十五歳の夏はこれきりもう二度と来ない。
高校受験を控えて、彼女は毎日塾に通って朝から夜まで授業を受けているという。
彼女自身がそれを望んでいるのかどうかわからないけど、遊びたい気持ちに封をしているのは間違いなかろう。
思春期は日々の葛藤とともに過ぎる。
彼女が生まれたときから家には犬がいて、その犬は数年前に死んでしまったのだけど、今はまた別の犬を飼っている。
その犬をとても可愛がっているようで、スマホを取り出すとトイプードルの写真を見せてくれる。
彼女にとって犬の存在は大きい。将来は動物看護師になりたいという。獣医師ではないのかと聞くと獣医ではないという。
いらぬお世話で北大の獣医学部がいいよと吹き込んだけど、たぶんすぐに忘れてるだろう。『動物のお医者さん』(マンガ)面白いよね。
彼女が望む道に進めばいい。
なんたってまだ十五歳なのだ。できることも楽しいこともたくさんある。
彼女が今欲しいものは服で、かっこいい系の服が好みらしい。
久しぶりに会うとずいぶんクールに大人びていたが、波と遊んでいると表情がやわらかくなっていく。
これは勉強の合間の息抜きなんかじゃあない。
旅をすると脳が活性化するという。旅は人生を豊かにするサプリのようなものである。
Comments