前撮りの写真(愛媛県宇和島市)

新婦のおじいさんが住む家は、緑の山に囲まれた小さな入江にある。 母上から「どうもすいません、こんな遠くまで」と言われる。 僕はなんてことないですよと平静を装いながら、内心では宇和島駅から30分バスに揺られて着いた海辺の小さな集落の佇まいに心が躍る。ここまでかかった交通費のことはどうでもよくなっている。 新郎新婦が神戸で結婚式を挙げたのは7月7日のこと。 折しもその前日の大雨で、南予は大きな被害を受けた。鉄道も道路も寸断されて、宇和島から来るはずだった祖父と叔父叔母夫婦は結婚式に参列できなかった。 今日は、そのとき撮るはずだった写真の後撮りである。 お世話になった人に自分の花嫁姿を見せたいという彼女は準備をよくがんばった。 母上が買ってきたウェディングケーキにナイフを入れ、サンクスバイトと称して新婦が彼女の叔母さんの口にケーキを運ぶと、二人は感極まった。自宅で挙げるもうひとつの結婚式。 ロケフォトの撮影場所に海辺のバス停を選んだ。由来は知らないが、「夏秋(なつあき)」という素敵な名前のバス停である。立秋の季節にぴったりだ。 穏やかな海を背景に立つ二人。初めて新婦の故郷に来たという新郎はどんな印象を持ったろう。 その彼はポーズのすべてがぎこちなく、彼女に容赦なくいじられる。 漫才のようないいコンビである。結婚おめでとう。末長くお幸せに。

ところで、新婦から家の中でベールダウンの写真を撮ってほしいと言われて撮った。 挙式でできなかったからだという。なんでもベールダウンをすると5万円かかると式場に言われ、諦めたらしい。この理由にはちょっと衝撃を受けた。 僕が無知なだけなのか。それともそんな阿漕な仕事をするのが結婚式場なのか。 あとついでに。 撮影終えて母上から強く勧められて、宇和島のかまぼこをいただいた。 酢味噌が添えられていると思ったら、「みがらし」だという。味噌に辛子と砂糖(味醂かも)を混ぜて作るそうで、味噌は麦味噌のようだった。宇和島ではおでんもそれで食べるという。おいしかったです。



三原由宇出張写真室

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