「虹の足」(作:吉野弘)という有名な詩があって、家族写真を撮っているときに、思い出すことがある。
大人が一人通れるくらいの細い路地を入り、目指すべき家の前にたどり着いたものの表札がない。
ここだろうか。すると家の中から子どもの声が聞こえて、ああここだと思ったところで玄関の引き度ががらりと開いて小さな女の子を抱っこしたパパが現れる。
家族に会うのは3年ぶりだ。六歳のお姉ちゃんの七五三以来だ。彼女は覚えていないだろう。
今日はなんの記念日でもイベントもない、ただの日曜日。
家の裏には空き地があり、そこを小さな畑にするらしい。三歳の妹ちゃんは大きなスコップを小さな足で土に押し込む。そして雑草を刈って起こしたばかりの土に空豆の苗を植える。黒い土に頼りなげな若葉がぽつんと残った。
その光景を撮りながら、今、「虹の足」の中にいるのだなと思う。あとから写真を見て気づいてくれるだろうか。
おしゃれでもないSNS映えもしない平凡な写真を撮っているとき、僕はほんとに幸せだ。
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