昼間降っていた雨は上がった。
福塩線の電車はがたごと走って田園地帯の小さな集落の駅に到着する。
すでに夕方5時を過ぎている。日没が近い。
江戸時代からあると思われる広大な庄屋さんのお屋敷は一部が改装されて一般の人が使えるイベントスペースになっているようだ。
そこで広島から帰省してきた大学生が着付けをしている。
保育士を目指す彼女は、大学の寮長をしているのだという。
「みんな(寮生)私のこと怖いみたいで」と言うが、本人は実際ひょうきんなキャラであった。きっと子どもに好かれるだろう。
ふざけた写真も撮ったけれども、二十歳の記念だからちゃんと撮ります。
撮りながら、ずいぶんしっかりした人だなと思う。同じ歳だった頃の僕よりずっと大人だ。
振袖姿の彼女を目を細めて見守るのはお祖母様である。二人は仲がいい。一緒に過ごした年月の長さを感じさせるほどに。
撮影の終わりにふと漏らした。「おじいちゃんにも見てもらいたかったね」「今日が四十九日なんですよ」
その口ぶりから、本来ならそこにいるべき人の不在が現れる。
お祖母様のスマホの待受画面が夫の写真なのはさっき見ていた。
機材をバッグに仕舞う前に、撮り忘れているものがあるような気がして思い出した。お祖父様の遺影はお持ちですか。
はたと気がついた表情で二人は顔を見合わせる。
家にあるのなら、持ってきてもらうより撮りに行くほうが早い。
撮影時間は過ぎていたけれど車に乗せてもらって仏壇の前で遺影を手にした記念写真。撮るべき写真が撮れてほっとした。
遺影は結婚式で撮った写真なのか、モーニングを着たお祖父様であった。柔らかい表情をしている。
お若く見えますねと言ったら、「10年くらい前の写真なんです」と返ってきた。
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