正月の三日目。美観地区の堀の周りには観光客が絶えない。
そこかしこで記念写真を撮ったり、そぞろ歩きを楽しむ人たち。例年に比べれば少ないのだろうが、このご時勢にあっては多いと感じる。
成人記念の撮影にやってきた彼女は、初対面から意気消沈した面持ち。
なんでもスタジオで施されたメイクが濃すぎて気に入らないらしい。比較的ナチュラルなメイクだと思ったのだが、慰めにはならないだろう。まあ着物の柄とのバランスもあるだろうし……乙女心というのは難しいものです。
おまけに写真を撮られるのが苦手だと言う。実際にカメラを向けると、目が泳いでカメラを見てくれない。
撮り始めて10分くらいでもう終わりかというような気配を感じたので、先回りして撮影時間は1時間あるよと言うと、逆転ホームランを打たれた投手のように彼女は思わず天を仰いだ。なのであまり無理をさせずに撮る。
彼女はあまり自分というものを前面に出さないのだろう。どこまでも控えめ。
それなのに大人の定義を尋ねたら「自立していること」と答える。経済的に自立したいと言うが、そんなことは社会人になればすぐに実現する。
それよりももっと心に秘めたものがありそうな気がする。彼女自身もまだはっきりと意識していないのかもしれないけれど。
ご両親のような大人になりたいかという問いには、彼女は即座に「いいえ」と答える。
そうかそうか。もう自立してるじゃないか。あとはその気持ち通りに生きていけばいいんじゃないか。
きっと彼女らしい人生を歩んで行ける。
成人おめでとう。
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