10月16日
沖縄県石垣市白保 11:25
気持ちのいい風が集落の中を吹き抜ける。ハイビスカスが揺れる。赤瓦を乗せた古い家は戸を開け放ってひっそりと佇んでいる。
一歳になる子どもの誕生日祝いはタンカーユーエーと呼ばれる。家族のほかに親戚のおばあちゃんたちが家にやってきて、みんなでお祝いする。
その準備も結構たいへんだったりするが、欠かすことのできない大切な行事である。
もっとも、当の赤ちゃんは突然現れた見知らぬフォトグラファーにきょとんとしている。
選び取りをやり、一升餅を背負ったあとは、みんなで祝いの御膳を囲む。
小さな太鼓が出てきて、誰かがカチャーシーの口ぶりをすれば、驚くことに赤ちゃんの手はそのリズムに合わせて動く。こういう感覚は内地にはないから、ちょっと羨ましい。
夕方になると、小学生のお兄ちゃんとお姉ちゃんが帰ってきた。
この家族は今までにも何度も撮っているから、ああまた来たな、くらいの反応である。
一番上の子は高校三年生のお姉ちゃんで、来春に美容師になるため大阪の専門学校に行くらしい。だから赤ちゃんには17歳年上の彼女と過ごした日の記憶は残らないだろう。
それでも四人の子どもたちは兄弟で、家族である。撮らずにいられようか。
夜の宴席の準備に忙しいパパとママにちょっと抜けてもらって、浜で家族写真を撮る。初めて撮った9年前は鯉のぼりの下で撮ったっけ。
島ではゆっくり時間が流れているように思うけれども、気がつけば子どもたちはみなどんどん大きくなっていて、昔の面影を探すことすら難しい。
写真は何のために撮るのかわからないけれど、撮影したひとつ一つの写真は変わることがないから、そのときを思い出すきっかけにはなるだろう。
そのくらいの存在意義でいいのだ、写真は。
夜の宴席には僕も混ぜていただいて、ビール2本と泡盛を3合か4合飲んだら完全に酔っ払った。
宿に帰る途中で行き倒れのように集落内の道の真ん中で寝ていたら、通りがかったタクシーの運転手に起こされて「だいじょーぶだいじょぶ」と答えたのは覚えてる。
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