いつもなら賑やかな子どもたちの声が響いているであろう団地の広場は、春の雨に打たれてひっそりしている。
桜はちらほら。ユキヤナギの白い花が揺れる。
昭和時代の団地にはエレベーターがない。狭い階段を上り、重い鉄製のドアを開けると二人の家。もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
室内はおしゃれにリフォームされて快適そうだが、建物は建て替えが決まっていて、近々退去しなければならないらしい。
「ここがよかったんですけど」残念そうにママは言う。さもありなんと思う。
白熱灯の明かりを消して、部屋の中でマタニティの写真を撮る。
二人だけの時間はもうすぐ終わり。
3年前の前撮りときに、エプロンをつけて写真に収まった彼は、家事のほとんどをこなしているという。素晴らしすぎる。
赤ちゃんが生まれたら、がらりと生活が変わる。その不安と期待と。どうか二人でがんばってほしい。
この時勢で、夫は出産時の立ち合いができるかどうかもわからぬらしい。分娩のときでも妊婦はマスク着用だそうで、それを聞いて思わずのけぞった。
こんな時代に生まれる赤ちゃんは、きっとたくましく育つ。
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