バスを降りて富着(ふちゃく)の砂浜に出るとあからさまに強い海風が襲ってくる。
青空が広がったのはよいのだが、風が強すぎるのは困る。
沖合いでは白波が真一文字に立っていて、サンゴ礁が波を食い止めているのだが、それでも波は打ち寄せる。小さな子どもが遊べるような海ではない。
二歳の男の子はそんな海を怖がることもなく、嬉々としている。海に入っていこうとする彼の体をパパとママが必死につかんでみんな一緒に濡れる。
男の子はすぐに全身ずぶ濡れだ。風が強いので体が冷える。ホテルに戻って着替えてもらい、撮影場所を近くの恩納村海浜公園に変更した。砂浜は狭いが、いくぶん波が弱い。
シーズンオフの村営ビーチは訪れる人もまばらで、揃いの赤いTシャツを着たスタッフの女性二人が、砂浜に座っておしゃべりしている。
男の子は、波打ち際で遊んだあと、階段を上り下りしたり、伏せたボートによじのぼったりしてのんびり遊ぶ。
二歳だとそんな他愛もない遊びで十分だ。
お揃いの白いTシャツで写真を撮ろうというパパとママの目論見はあっさり外れたけれど、出張撮影は予想通りいかないことが多くて、だから楽しい。
撮影終えて、公園近くの軽食屋に入って沖縄そばを注文した。
店は小さく、テーブルがひとつあるきり。女主人の知り合いなのか親戚なのか、若い男が隣で唐揚げ定食のようなものを食べている。
テレビでは昼のワイドショーをやっていて、コメンテーターが国会議員である丸山某の発言を散々こき下ろしていた。
三十代半ばの当選歴浅い議員だから、存分に叩けるのであろう。これがもし今の首相の発言だったら、どうなっていたろう。彼らは同じように非難するであろうか。
いや、しないだろうなあ。
那覇まで戻ってくるとホテルに近い崇元寺公園前でバスを降りる。バス停前の古めかしい石の門をくぐると、見上げるばかりのガジュマルの大木がある。
南の島の樹木の葉は厚く、濃い影を作る。
石の門には無数ともいえる弾痕が残る。この木は苛烈な戦争を生き抜いてきたのだと思うと、何か圧倒されるものを感じる。僕はこの木が好きだ。
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